「竹田の子守り唄」の故郷から、この歌の心を届けたい。
このCDの構想と言えば、これだけかも知れない。京都の被差別部落に歌い継がれた子守唄が、ムラを出て、大ヒットとなり(その後、部落差別によって放送で紹介されなくなり)、そして歴史がぐるーっと回って「解禁」される。
その長い年月の中で、実際のムラの女性たちの肉声は、ほとんど聞くことはできなかった。「竹田の子守唄」は、何よりも先に<私たちの歌>なのだ。私たちの歌を聞いてほしい…という願いが実現したのが、今回のミニアルバムである。
主体となったのは、部落解放同盟改進支部女性部である。2002年に、彼女たちは初めて大舞台に立ち、地元に歌い継がれてきた「竹田の子守唄(元唄)」を自らの声で披露した。不特定の聴衆とカメラの前に立つことは、彼女たちにとっては相当の決意が必要であったが、この時の拍手が新たな一歩となったのである。
改進支部女性部の(合唱チームとしての)活動は、以後徐々に数が増えていったが、その中で冗談とも本気ともつかない「いつかCDを出せればいいね」という意見がポツポツと聞こえてくるようになった。それほど彼女たちの心に、この子守唄は自分たちの歌なのだという自覚が強く芽生えたということなのだろう。
歌もそれにつれ、元唄、元唄の次の世代の「竹田こいこい節」だけでなく、「竹田長持唄」と、レパートリーも増えた(長持唄とは、結婚式や神事に長持をかついでうたう歌)。
「竹田長持唄」にしても、ただ単に古い伝承歌を掘り起こしているのではなく、新しい現代の結婚観を反映した歌詞が加えられている。彼女たちは、いわゆる「保存会」ではない。母親、祖母の代から綿々とうたわれてきた地元の宝を、今に活かそうとしている。
こういった彼女たちの姿勢、願いに感銘を受けたのが、
亀渕友香(VOJA)や
佐原一哉だった。亀渕は、ご存じのように日本のゴスペル・ブームの中心にいる大ベテランだが、彼女が歌唱指導をかって出て、アメリカでの予定を変更してまで竹田にやってきてくれた。
亀渕は「自信を持ってうたうこと」「決して、上手くうたおうとしないこと」といった、基本中の基本だけを伝えたが、その言葉の質はとても重厚かつ説得力にあふれたものだった。
ネーネーズ、そして古謝美佐子のプロデューサーとして知られる
佐原一哉から電話が入ったのは、この企画のスケジュールが確定したあとの2005年も暮れようとしている頃だった。彼は、問題がなければ自分も参加したいと言った。カネの問題じゃないとも彼は言った。河内音頭、江州音頭、そして沖縄のルーツ・ミュージックと、洋楽出身ながら日本/沖縄の音楽文化の根幹に触れてきた人物ならではの熱意だった。
かくして、CD『竹田の子守唄 ふるさとからのうたごえ』は、完成した。
「子守唄」と言えば、私たちはどうしてもクラシック調の(やけに)小奇麗な歌声を思い浮かべてしまうが、そんな思い込みを完全にくつがえすのがこの改進支部女性部による歌声である。
ストロングな歌声だ。各人各メンバーの歌に託した思いが、遠くから前からザワザワと聞こえてくる。亀渕が指導した、あなたたちはそれでいい、だが「決して、上手くうたおうとしないこと」というメッセージが存分に反映された、ムラに生きる女性たちの声である。
トラック4は、今は故人となった古老の貴重なテープ(元唄)。
そして最後のボーナス・トラックは、
佐原一哉が女性部のアカペラに伴奏をつけた「TAKEDA LULLABY」。さすが「童神」を作った人物ならではの、素晴らしい作品となった。ここで聞ける女性部のコーラスは、鳥肌もののスリルだ。
(藤田正)
竹田の子守唄
ふるさとからのうたごえ
1,500円(税込)
1 竹田の子守唄(元唄)
2 竹田こいこい節
3 竹田長持唄
4 竹田の子守唄(元唄)the original tape
5(ボーナス・トラック)TAKEDA LULLABY
トラック1〜3:部落解放同盟改進支部女性部(うた)、
福森徹也(指揮)、上村典子(ピアノ)、
中谷知世(サックス、ピアノ)
トラック4 : 武村ヤス(うた)
トラック5 : 部落解放同盟改進支部女性部(うた)、
佐原一哉(キーボード、ギター、編曲)、
石田雄一(マニピュレイト)