ゴスペル・ブームの頂点に立つ亀渕友香
Victor
ゴスペル・コーラス」が静かなブームを呼んでいる。
 映画『天使にラブソングを2』(93年)のヒットからブームは本格化し、今ではMISIA平井堅、ゴスペラーズら黒人系シンガーは、ごく当たり前のようにゴスペル的な歌を取り上げるようにになった。
 実力派シンガーとして知られる亀渕友香は、NHK教育「趣味講座 ゴスペルを歌おう」の講師や、日本における本格的な女性ゴスペル・グループ、JOYを率いるなどブームを牽引(けんいん)してきた中心的人物である。そんな彼女に、ゴスペルの魅力を聞いた。
 インタビュワー:藤田正(Beats21)。
 

■一時的なブームに終わらせないために
----亀渕さんのゴスペル初体験って、いつのことなんですか?
 もうずいぶん前になります。以前は黒人霊歌と言っていましたけど、私は「ディープ・リバー」「ダウン・バイ・ザ・リバー・サイド」とか「スウィング・ロウ、スウィート・チャリオット」とかをずっと聞いてました。その頃から、私が大人になったら、こういう歌をうたう人になるだろうという予感はありましたね。
----ということは、子どもの頃からゴスペルを聞いていた。
 そうです。ジャズのエラ・フィッツジェラルドなんかと同じようにです。個人的に好きでゴスペルに接していました。でも今は、たとえば「アメイジング・グレイス」にしても、日本でも大勢の人がこの音楽に共鳴してくださっている。それは、ゴスペルのリズム、メロディや意味がとても深くて、逞(たくま)しい音楽だからでしょう。接する機会さえあれば、ゴスペルは誰でも好きになる。私は今、そんなことを改めて感じてますね。
----ゴスペルには、黒人の嘆きだとか、希望だとかといった月並みな言葉では表せないものがありますものね。
 だから今の状態をブームで終わらせないために、私自身がゴスペルの歌に隠された様々な意味を検証していかなければならないと思っているんです。恥ずかしながら、私がそういうことを学ぼうと考えるようになったのは、そんなに前のことじゃないんです。今はいろんな所にゴスペルをうたうグループがあって、私は各地でコーラスの指導をしているわけですけれど、そうであるならなおさらゴスペルって何なのかを考えなくてはなりません。かつて「ニグロ・スピリチュアル」と呼ばれていたものが、どうしてゴスペルと呼ぶようになったのかとか、ゴスペルの定義とは何かとか。少しずつですが、私も勉強しています。
■進駐軍時代に聞いたブラック・ミュージック
----指導をしている人たちの反応はどうですか。
 うたい出すと、だんだん至福の表情に満ちてきますね。みんなの心が高まってくるのが、はっきりとわかります。それがゴスペルの魅力なんですね。
----それにしても、一人の日本人女性が小さい頃から黒人音楽、ゴスペルに親しんでいたという環境はユニークですね。
 私は昭和19(1944)年生まれなんです。北海道で生まれて、育ちは銀座です。ですから目の前にGHQ本部があり、たまたまオバがジャズをうたっていて、GIも周りにいるという環境だったんです。
----進駐軍のまっただ中で育った少女。
 その(占領下の)圧迫感というんですか、子ども心に何とはなしに感じていたんでしょうね。韓国の人もたくさんいたし、靴磨きの少年もたくさん。貧富の差も激しくて。そういう中で聞いた黒人音楽って、自分が置かれてる立場と似ているということを、私はすごく感じていたんだろうと思います。もちろん当時は言葉ではなく、感覚だけだったんですけど。
----当時のジャズだ何だと言っても、おおむねは白人系の音楽だったんですよね。その中で亀渕さんが黒人音楽を自分の耳だけで選択しているというのは、相当に鋭い感性の持ち主だということの証明ですね。
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 ゴスペルは本当に好きでした。もちろん意味もわからずですよ。ただ小学校へ行くようになると、大好きなマヘリア・ジャクソンのこの歌は何をうたっているのかが知りたくて、辞書で調べてました。
----その頃からマヘリア・ジャクソン。ゴスペルの女王のような存在を、異国の小学生が辞書を引きながら…。
 私がマヘリアが聞いていたあとになって、アレサ・フランクリンがデビューしてきたんですから。でもね、私よりずっとお歳が上の方でも、学生の頃から黒人霊歌をうたってらしたという人がいるんです。ちゃんと研究してらっしゃる方もいらしてね。だから私一人じゃない。ゴスペルは、昔から一度聞けば好きになってしまう魅力的な音楽だったに違いないんです。ただ日本ではチャンスが少なかっただけなんじゃないでしょうかね。

■今は、ゴスペルしかうたいたくない
----何を聞いても、心のどこかにゴスペルがあった。
 そうです。まだ十代の頃に、ダイナ・ワシントンとかたくさんの素晴らしいシンガーを聞いてましたけど、でもゴスペルは…、いつも私のボトムにあった音楽なんです。
(写真は2001年6月に発売されたアルバム『JOY/JOY with 亀渕有香』)
----ゴスペルはキリスト教の音楽ですが。
 わたしはクリスチャンじゃありません。でも小学校の頃はクリスチャンの学校へ行ってましたから、そういう考え方は教えてもらっていたとは思います。それで、面白いなと思うんですけど、黒人のシンガーのほとんどがゴスペル、黒人教会から出発するじゃないですか。そして次にR&Bやブルースといった世俗の歌をうたい出す。でもある年齢を境に、ある人たちはやっぱりゴスペルに戻ってくるんですよ。アル・グリーンなんかその典型ですよね。
----ということは、亀渕さんも、似たような…。
 そうですね。私は黒人じゃないし、キリスト教徒でもありませんが、小さい頃に覚え知った一番好きだった音楽に戻ろうとしている。そんな感じがするんです。私はリズム&ブルースを歌ったり、ジャズをやったり、いろんなことをしてきましたけど、正直に言って今はゴスペルをうたいたい。スピリチュアルな歌をうたいたいんです。おかげさまで、「亀渕さんのジャズ・スタンダードのアルバムを作りましょう」などと、みなさんが声をかけてくださるんですけど、私はその気になれないんです。私は今、ゴスペルの世界へ帰ってきたということが大切なんです。
(おわり)

( 2001/07/25 )

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12月11日、12月12日 しょうちゃんの蛇に三線/藤田正
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ゴスペル・ブームの頂点に立つ亀渕友香
12月4日、12月5日 しょうちゃんの蛇に三線/藤田正
10月15日、10月16日 しょうちゃんの蛇に三線/藤田正
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