大熊ワタル(シカラムータ)/21世紀版・大道ミュージック
RES55
「このアルバム、カーニバルの気分です」(小沢昭一
 マルチ・リード・プレイヤーとして独自の世界を持つ大熊ワタル(旧・大熊亘)率いるユニット「シカラムータ」が2枚目のアルバムを発売する(2001年10月24日)。タイトルは『凸凹 デコボコ』(リスペクト/写真)。
 元パンク・バンド、チンドン屋でクラリネット修行をし、ヂンタからアルバート・アイラーまでこなす男。その不思議な「カーニバル音楽」に迫る。
 インタビュワー、藤田正(Beats21)。
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■アルバート・アイラーの亡霊
----このセカンド・アルバムにはアルバート・アイラーのメドレーがあったり、ニューオーリンズのジェリー・ロール・モートンを彷彿させるタイトルの曲があったりしますが、ジャズをやっているんですか?と言われると、ちょっと困るでしょ。
 ノンジャンルだとか脱領域とか言ってますが、売る立場の人だとそれじゃ困るみたいで、今度のアルバムもジャズの棚を中心に置いてもらってます(笑い)。アイラーも入ってますしね。アドリブが基本でもあるし。
----元々はパンクをやっていて(絶対零度)、「こんな場所」までやって来た。
 チンドンとの出会いとか、クラリネットを始めたとか、そういった大きな変化はあるんですが、指向性としては一直線じゃないかと思うんですよ。寄席的というか、大道演芸というか。もちろん最初は洋楽で、ニーノ・ロータとかフェリーニですけど、やはりあの世界も芸人的、バラエティ的ですよね。それと、アイラーのフリー・ジャズにしてもパンクにしても、熱を帯びた音が好きだったから。
----アイラーは一応はフリー・ジャズの中に入っていたけど、チンドン屋のヂンタみたいなパレード音楽と似ているところがあって、ニューオーリンズ・ジャズが成立した頃の原点に戻ろうとしていたフシがありますよね。そういうことは、大熊さんのような音楽を聞くと、改めて感じるんだけど。
 ぼくにもしっくりくる人です。二十歳の頃に聞いた時は、ぐちゃぐちゃ過ぎて何がなんだかわかんなかったけど、しだいに、音楽の中に埋もれた何か、それがゴーストなのか、モノノケなのかも知れないけど、そういったものを喚起させてくる人だと思うようになりました。
----「青い花のコパニッツア」という曲がありますが、この「コパニッツア」というのはブルガリアのリズムですか。
 ルーマニアあたりのリズムだと思います。バルトークなんかが取っかかりなんですが、バルカン半島の変拍子がずっと好きで、鼻歌でも出てくるんですね。11拍子です。あれは踊りのステップなですよね。
Beats21
■見世物小屋の呼び込みと、大道芸のスピリット
----1曲目のアタマには、見世物物小屋の呼び込みの声が入ってますね。あれはヘビ女の?
 ヘビもやってましたね、オバアサンが。録音したのは秩父の夜祭です。
----東京の方ですか。
 三河安城ですね。
----となると、日本の芸能としては…
 そうです、まさにスウィート・スポット。
----大垣にも、ヘビの呼び込みやら、人間ポンプやら何でもできる人がいましたね。ぼくは何度も取材させてもらいました。
 安田(里美)さんでしょ。ぼくはあの方の最晩年に東京の舞台で2回観ました。観れて本当に幸せでした。
----丸呑みした金魚を出したり。
 金魚もそうですが、最後に河内音頭を歌うでしょ。あれが古き万歳の姿を伝えていて感激しましたね。
----そうですよね。あのスタイルは、今や河内にもないんですよ。河内平野の音頭が、大阪の寄席で受けた時のものだから。
Beats21
----タカマチ(高市)の呼び込みなんかは、ある人たちからすれば、いかがわしいものとされてるわけだけど、なぜアルバムの冒頭に?
 表面的には関連性はないんですが、大道の演芸のスピリットによって音楽を呼び込んでもらっている、というような感じですね。
----なんでクラリネットを?
 きっかけはサックスの篠田昌已君なんですが、要はクラリネットが彼の部屋で余っていたんです(笑い)。またチンドン界でクラリネット吹きが枯渇している時期で、近いうちに自然消滅するんじゃないかと言われていて、だから貴重なポジションでもあったわけです。
----その根底には、アイラーとかエリック・ドルフィーといった人たちのイメージがあった?
 そうですね…やっぱりあったんじゃないですか? ドルフィーも好きですから。どこか闇を抱えているようなね。ドルフィーが吹いてたバス・クラリネットという楽器自体がダークな音色だし。クラリネットも、サックスよりは前近代、モダン直前の音をしている面白さがあります。同じ木で出来たバイオリンとか、アコーディオンとかと道端で音を合わせると、すごく気持ちがいいんですよ。
■異質なものがぶつかって、吹きだまって…
----バイオリンといえばオーネット・コールマンもそうですよね。彼も昔はずいぶん変わっていると言われたけど、そんなミュージシャンのやってることが、今の時代を先取りしていたとも言えますよね。オーネットは黒人だけど、あの人のやってる音楽からは、まるで文化の異なるヨーロッパの音楽も聞えてくる。大熊さんの音楽にも、共通点があるんじゃないかな。大熊さんは極東のミュージシャンだから、なおさら色んな音楽を俯瞰して感じ取ることができる。
 たぶんね、境界線上みたいなところで、つながっていくんじゃないかな。異質なものがぶつかって、吹きだまって、ルツボになって、そういう所にぼくの興味が向いているんでしょうね。ジャズだって、別に単一な音楽じゃないでしょ。黒人と白人がせめぎあって出てきた音楽ですから。
----「好きになってごめんなさい」の最後に、イスラムのお祈りみたいのが出てくるけど、あれは何?           
 (笑い)あれはバイオリンをやってる太田惠資(けいすけ)のお得意のデタラメなんです。カッワーリーみたいに聞える。
----インチキなヌスラット・ファテ・アリ・ハーンですか(笑い)。このアルバムが同時多発テロがあった2001年9月11日以前の録音だというのは知ってるけど、時節がら、すごいメッセージがあるのかと思いますよ。      
 録音は5月ですから(笑い)。
Respect rec.
■「アメリカの影」とどうやって付き合って行くか
----でも、このアルバムに表われている音楽というのは、「反アメリカ的」なものばかりですよね(笑い)。    
 昔、『アメリカの影』(ジョン・カサベテス監督、60年)という映画がありましたけど、たしかに、みんなそういうことを無意識にでも抱えているんじゃないですか? ぼくだってコーラとかディズニー映画とかで育っていて、アメリカの文化には素晴らしい所もあるんだけど、反面、どこか押しつけがましさを感じている。ハリウッド映画なんかそうでしょ。そんな時にヨーロッパや日本の映画を発見したりする。ヨーロッパへ行っても感じますけど、結局、「アメリカの影(の部分)」とどうやって付き合って行くのかが、ぼくらのテーマじゃないかと思います。
----崔洋一監督の『豚の報い』(99年)で音楽を担当しましたが、監督とも感じあえるものがある。
 監督はぼくの音楽を以前から聞いててくれたみたいですね。個人的な話になりますが、ぼくは仲間と山谷へ遊びに行ってたりしたんですが、佐藤(満夫)さんという映画監督が殺された事件がありましたけど、その佐藤さんの人民葬を崔さんも手伝ってくれてました。そういうつながりもあるんです。崔さんはマイノリティだし、同じものを見ても違う風景が見えているはずなんですよ。ぼくもそういう所に共感するものがありますね。
Respect rec.
----バンドとしては生のアンサンブルにこだわっている。
 そうですね。ユニットとして、一緒にやっているという同時性が第一ですから。やっぱり生の演奏がメインですね。
----先ほどアドリブが基本とも言ってましたよね。
 アドリブ神話ってありますよね。人をあっと驚かすようなフレーズを吹くとか。ぼくの場合はそうじゃなくて、同じメロディを吹いているだけで毎回、違うはずなんですよ。その音が新鮮な気持ちで、新鮮な音が出ていればそれでいい。いわゆる邦楽でも、一見、自由とか個性が少ないないような世界にでも、そんな中で歌を突き詰めて行った人には自分印の究極の歌い方ができている。それをアドリブと言うか言わないか別としてね。
----アドリブというと、かつては個と個の戦いのようなイメージがあるけど、大熊さんが言っているのは「和」なんですね。
 いや、ぼくらだって本番なったら、殺意に近い感情になるんですよ(笑い)。予定調和は良くないです。でも音楽は「勝ち」「負け」じゃない、ということです。
■小沢昭一さんの芸人根性と接して
----最近は小沢昭一さんともやってますね。 
 童謡を歌った『夢は今もめぐりて』ですね。小沢さんは、大先輩として、これまでの放浪芸の成果とかずいぶん参考にさせてもらいました。
----あの録音は一緒にやったんですか?
 一緒にやったものもあるし、後から重ねたのもあります。さすがでしたよ。泣きながら歌ってる。情歌ですよね小沢さんは。やっぱりストリート的な、闇にスポットを当てている大先輩でした。ぼくのクラリネットも聞いてたとおっしゃってて、思わず著書を持っていってサインしてもらいました(笑い)。
----命をかけた芸人根性。
 うん、それは見習いたいですね。ミュージシャンシップという言葉があるけど、ぼくも自分の存在をかけて音楽をやって行きたいですよ。
(おわり)
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