宮古島歌謡の第一人者、国吉源次
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 沖縄の歌には、本島、宮古、八重山と地域による三つの大きな流れがある。
 この中で宮古島の歌は、本土ではまだまだ認知度が低いものの、他の島々に負けない優れたものが多い。
 2002年3月21日、ビクターから『伊良部トーガニー』を出した国吉源次は、この宮古島歌謡を代表する人物である。本島(琉球王朝)に痛めつけられ出来上がった宮古の反骨の精神は、国吉の歌にも充分に反映されている。
 国吉源次(くによし・げんじ)。
 1930(昭和5)年、宮古島の城辺(ぐすくべ)町に生まれる。
 小さい頃から歌うことが好きで、四六時中「歌ってばかり」の少年だった。当時の沖縄では三線を手にし歌で「遊ぶ」ことは、よくないこととされていたが、周囲は国吉の歌を止めることができなかった。
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 若い頃の私は、「くゎく」と呼ばれていました。
 拡声器のように大きい声という意味の、「拡」です。
 私は地元の芝居の地方(じかた)なんかをやったあと、大志を抱いて那覇にやってきて(1965年)、NHKの「のど自慢」で優勝しました(67年、沖縄地区大会民謡の部)が、今からふり返るとずっと歌に人生を捧げてきたようなものですね。
 私からすれば、歌は哲学だと思うんです。歌に真剣に取り組んでいて思うことは、人が歌を「こうしよう」「ああしよう」と指図できるようなものじゃないということです。
 逆に、歌が人に教えている。「この部分には、これが必要だ」と、歌が人を右へ左へと動かしている。絶対にそう思います。
 宮古には名曲がたくさんありますが、中でも特に「伊良部トーガニー」はそうです。他人にうたわせたくない歌です。
「伊良部トーガニー」は、離島の伊良部の女性と、宮古本島の男の人の美しい恋物語です。しかしどんなに頑張っても「伊良部トーガニー」を私は「征服」しきれない。
 私は年も年だから、このままで終わるのか(死ぬのか)と思う時すらあります。
 満たされない欲望というのか、歌が「ここには必要なものがあるのに、お前は何でやりきれないのか」と言っているような気がしてならないのです。
 歌自体が生き物のように問い掛けてくる。だから歌は哲学だと私は考えるようになった。
 若い頃は、そう思いませんでした。ただ好きで歌っていた。
 でも今は違います。歌はそんな簡単なものじゃないことが、私には少しづつわかってきた。だから本当に苦しい時もあります。
 
 今度のテロ問題(米・同時多発テロ)で、世界が騒ぎ立ててましたね。
 イスラムの人たちの生活の苦しさを見ると、普通の人たちが上の者たちに絞りあげれられて、国民が餓死状態となっていることがわかりました。
 昔の宮古では、畑に出て、葉っぱでも木の実でもいいから食べようとして、そのまま死んでいった人がいたそうです。旱魃ですね。宮古はとても貧しかった。
 餓死もすごく多かったと、私のおばあさんが話していました。
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 粟の殻ですら、簡単に捨てなかった。
 その殻を煎じて飲むと、夜もなんとか寝ることができたそうです。
 青い葉だったら何でも食べているような生活をしていると、栄養になるものが採れない。粟の殻だったら、ほんの少しでも養分があるから、体が休まるのだそうです。
 こういう話は、おばあさんがよく言っていました。私のおばあさんは「人頭税(にんとうぜい)」時代の末期の人でしたから、宮古が苦しんだその中に生きた一人でした。
 だから、少し前に首里城が再建されたでしょ。私、あれを観に行きましたが、本当に腹が立ってしようがなかった。我々の祖先が餓死してまで収めた金品で、彼らはあのようなものを建てていたわけです。許せない。
 私は2度と首里城へは行きませんよ。
 
 宮古の歌は、沖縄本島や八重山とは違います。
 本当にいい歌が多い。そしてそれは、こういう宮古の生活から生まれたものなのです。
 今回のCDも、一所懸命に歌ったものです。ぜひ聞いていただき、宮古の歌の良さを知ってもらえればと願っています。

( 2002/03/25 )

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