二つの「竹田の子守唄」とメッセージ・ソング(2)
キング K30H-989
美輪明宏「ヨイトマケの唄」と岡林信康「手紙」 

 続きまして、いわゆる「放送禁止歌」を紹介したいと思います。
 今ではエア・プレイは出来るんでしょうか、「ヨイトマケの唄」です。美輪明宏さん、当時は丸山明宏と名乗ってらっしゃいましたが、美輪さんが一九六〇年代に歌って、私も最初聞いた時は、びっくりしました。迫真の演技と言うんでしょうか、胸に迫るすごい歌です。
 「ヨイトマケ」というのは、「建築現場で地ならしをするための重労働、あるいはその人、掛け声をいい、多くは女性が従事する仕事」のことです(藤田正著『メッセージ・ソング』解放出版)。
 肉体労働を厭(いとう)ことのなかったお母さんの歌ですね。
 ヨイトマケのお母さんが自分を育ててくれた、自分が今あるのはヨイトマケをやってくれたお母さんのおかげだという素晴らしい歌なんですが、そういう職種の人たちを歌っているからダメだと、放送ではかからなくなりました。
 私には、なぜダメなのか理解できません。しかし自主規制というか、組織として止めておいたほうがいいようだという「暗黙の規約」にひっかかった代表的な1曲です。
 「父ちゃんの為なら、エンヤコーラ、母ちゃんの為なら、エンヤコーラ」と始まる「ヨイトマケの唄」(作詞作曲・美輪明宏)は、四〇代より上の方であれば一度は聞かれたことがあると思います。美輪さんは、シャンソンの方です。シャンソンは、日本では「おフランス趣味」みたいに成金を競い合うような音楽じゃないかと勘違いする時もありますが、ほんらいは大衆の苦しみや笑いをストレートに描き出すものでした。
 美輪さんは、本当のシャンソン歌手です。だからこそ「ヨイトマケの唄」が書けて、今でも歌っていらっしゃるわけです。
 美輪さんと10年くらい前にお話しさせていただいたことがあります。
 「ヨイトマケの唄」では、「土方」という言葉が大変に問題になるらしいんですね。
 この歌は、土方を卑下しているのではありません。誇らしいものとして描いているんです。ひたいに汗して働く土方の姿がどこが悪いのでしょうか。でも、土方とは汚らしい呼び方だとか、働いている人から抗議がくるんではないかという身勝手な思惑が、「じゃあ止めといたほうがいいな」という判断につながるらしい。「復興節」と同じです。
 「ヨイトマケの唄」というのは、日本を代表する60年代の大名曲だと思いますけれども、これも放送という舞台から消されていく歌となりました。(美輪さんの最新アルバム『{愛}を歌う』キング KICS857 にも、「ヨイトマケの唄」が収録されている)。
岡林信康(photo:Beats21)
 60年代は、政治の季節でもありました。フォーク・ミュージックがその代表的ですが、大衆のための音楽を、時に政治的に、前向きに意識的にうたっていこうという時代でした。
 体制側と、学生たちなり活動家なりが、厳しく対立しました。後者の立場にあった多くのシンガーたちは、「自分たちには、それまでの規制や常識を取り壊して歌うべきだ」と主張し始めます。当然のように体制側との衝突が起きます。60年代に、いわゆる「放送禁止歌」がずいぶんと現れたのは、こういう時代背景も無視するわけにはいきません。
 美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」から少しあとに、岡林信康さんの作品である「手紙」(1969年録音)も放送禁止になりました。 
 「手紙」や、同じく岡林さんの「チューリップのアップリケ」も、ある程度の年代の方であったらご存知ではないかと思いますけが、部落差別をテーマとした歌です。
 「手紙」は、深い仲となった「みつるさん」と「私」が結婚の約束をし、「みつるさん」はおじいさんから店を譲られることになります。でも、妻となる「私」が部落の娘であったことが分かり、「みつるさん」は店を継ぐことができなくなった。
 だから「私」は、身を引きます。
 岡林というミュージシャンは、デビュー当時から、分かりやすいメロディと歌詞で歌を作るのが実に上手な人でした。団結歌「友よ」などは、その代表例です。
 しんみりとうたわれる「手紙」にも、彼の個性がよく出ていると思います。
 私の意見を言わせてもらえば、こういう歌こそテレビでもラジオでもどんどん紹介するべきだと思うんです。
 「手紙」の歌詞は、部落の女性が差別と直面し身を引いてしまう歌です。確かにこの点については、解放運動を進める側から批判された歌でもありました。私には、歌は歌詞の内容を追うだけでは理解できないという持論がありますが、それよりも先に、歴史的に意義ある歌にちゃんとスポットライトが当たるようにしてから、批判なり評価なりをすべきだと思います。部落の結婚問題にしても未だに解決しておらず、ということは「手紙」の「文面」は今も「生きている」からです。
 これに関連して、私は複数の大手レコード会社の幹部に、どうしてメディアはこういった問題を嫌うのか、尋ねたことがあります。もっと積極的に、例えば過去のメッセージ・ソングをまとめたようなCDを出したらどうですか、とも聞きました。
 あるレコード会社の幹部は、放送禁止とか何とかというのは、まったくナンセンスだとはっきり言っています。
 しかし別の会社の幹部は、「話はよく分かる」がといった言葉が何度か続いて、そのあとがない。日本の文化の一翼をになう音楽ソフト会社の人として、とても残念な姿勢だと私は思いました。
(連載第3回へつづく)。

*2001年1月19日、京都会館で行なわれた「第23回部落解放連続講座」(主催・部落解放京都地方共闘会議)での公演を再構成したもの。

( 2001/03/05 )

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