書評:長部日出雄著『「君が代」肯定論〜世界に誇れる日本美ベストテン』
 本書は直木賞作家である著者が「日本を誇りの持てる国にしよう」と訴えるラスト・メッセージである。長部は「脳梗塞と三度の癌手術を体験し」たとのことで、本書は「遺言書のつもり」でまとめたそうだ。右の引用は最終ページに出てくるのだが、「遺言書」という言葉を前にして、ぼくは少し得心がいった。長谷氏、書き急いでおられるのか。だから(?)読者への説得がザツなのである。 
 副題に「世界に誇れる日本美ベストテン」とある。実質これが内容を示している。第一章の伊勢神宮から始まり、東大寺大仏、映画『羅生門』、棟方志功の版画「釈迦十大弟子」などの章を経て、十章が「君が代」。ベストテンの選び方はご本人の勝手だが、まず気になるのは、本書冒頭「はじめに」の部分だ。つまり、戦後の日本が「政治、経済、文化において学ぶべき規範はことごとく欧米にあり、わが国固有の伝統は押しなべて過去の遺物」だとして、顧みられることもなかったと、本邦文化人らの姿勢を批判する。だが、氏は第一章以降において、ブルーノ・タウト(建築家)が桂離宮を絶賛しただの、棟方志功や黒澤映画が海外で評価を得ただのと、な〜んだ結局は「外からの評価に頼ってるじゃんか」と、ガッカリの書きっぷりなのだ。
 伊勢神宮、「君が代」、天皇制といった、本誌読者にも関心の高いテーマを、長部日出雄という高名な作家の「遺言書」を通じて考える。これは基本的に有意義のはずだ。だが、例えば、東大寺大仏そのものを日本の誇りとして大いに誉める前に、今の我々は、大仏建立の際に発生した日本最初(?)の大公害や、聖武天皇の失政ほかを、どう捉えるかを検証するのが本筋ではないか。大仏のために膨大な数の民衆がいかに苦しみ、倒れたのか。著者は「一大公共事業でもあった」と語るが、そんな生易しい理解でいいんですか?
 そしてラストの「君が代」について、氏は「国民の尊敬と感謝の念を表わす返歌」だという。
 学校の現場で教師たちが、この「君」への「感謝の歌」の対応でどれほど苦しめられているのか、彼が触れることはない。
(文・藤田正)
 本体価格、720円。
*初出:週刊「金曜日」 2009年12月4日号

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( 2010/10/10 )

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