3月19日 しょうちゃんの蛇に三線/藤田正
「ディスク・ガイド」
三月十九日(水)

 昨晩、九時半過ぎに、九段の靖国神社からさほど遠くないリットー・ミュージックへ出かけた。担当編集者の服部さんから、『米国ラテン音楽ディスク・ガイド50's-80's/LATIN DANCE MANIA』が出来上がったとの連絡を受けたからだ。
 佐藤卓さんのアイデアになる表紙。そこには河村要助のイラストが踊っていて、中を開くと岡本郁生やらウィリー・ナガサキといった「マンボラマTokyo」のめんめん、そしてその仲間、知人たちの名前がズラリと並んでいるのだった。 
 表紙には、私と岡本の名前が並んでいるが、私はまるでたいしたことはやっていない。企画を立てて、自分の好きなアルバム〜アーティストのことを書かせてもらっただけで、あとは「Save The Coral 2008」のことばっかりやっていた。
 迷惑をかけてすまない、と思いながら、編集部のデスクで刷り上ったばかりのディスク・ガイドのページをめくっていたら泣けてきた。みんな音楽に熱い、バカな奴の原稿しかそこになかったからだ。地球の裏側の、日本人には縁もゆかりもない「ただのダンス音楽」にこれだけの愛をそそいでいる。ジャズやロックといった「出来上がった権威」に無批判に乗っかる気楽とは無縁の、その音楽に寄りそうことだけを至福とする人々。その感動的な(バカ野郎たちの)文章が並んでいたからだ。
 例えば、エクトル・ラボーの『フェリーペ・ピレーラを偲んで』(一九七九年)はどうだろう。ラボーは日本でもそれなりに知られる歌手だが、本作は、めちゃくちゃジミーなアルバム。だが書き手は次のように紹介する。
<密かに、この作品のラボーこそが最高だと思っている、心が絶えられないほどにね。
 72年に31歳の若さで逝った憧れの名ボレーロ歌手に捧げた、切なさ87%のアルバムだ。「苦界」「古い手紙」「ママの肖像」「罰」…これが題名。惨めで、つらくて、心は冬の枯れ葉のようだ。ぼくは弱い人間ですと、表現し切れてしまう歌手はきっと不幸だろう。ラボーこそがその人。歌手として絶後の存在でもなく、ダメな麻薬男だし…だがその負の個性を「華」に転じさせた奇跡。悲しみの絶唱。語り継がれる男の存在理由。そんなアルバムだ。>(八六ページ)
 こんなことを平気で書いている人がいる。失笑するほどに面白い。私は編集者だから、この文章が忘我の境地で書かれていることがわかる。思いがあふれすぎて、この人、アタマの線が切れたんだろうな…。
 サルサやラテン・ロックやブーガルーなんてこと一つも知らなくても、きっと楽しめる「愛のバカ本」、それがこのラテン・ディスク・ガイド。全編オール・カラーで珍盤&レア・アルバムが目白押しの我らの『LATIN DANCE MANIA』。
 担当の服部さん、そして書き手のみなさん、本当にお疲れさまでした。
 
リットー・ミュージック
amazon-『米国ラテン音楽ディスク・ガイド 50's-80's/LATIN DANCE MANIA』(3月28日発売)

( 2008/03/19 )

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