イスラムの音楽を聞く(1)/パキスタンの大歌手、ヌスラット
SRCS2497〜8
 米・同時多発テロに端を発した今回の世界的な緊張は、イスラム〜アラブ社会と欧米との凄絶な戦いにつながる可能性を秘めている。
 アメリカを中心に流れ込む圧倒的な情報によって、私たちの社会にパキスタンやアフガニスタンに暮らす人々を、白眼視、あるいは敵視する傾向さえ生まれている。
 Beats21では、この時期に、あえて豊かなイスラムの音楽に接することを提案する。
 第1回は、パキスタンが生んだ世界的な歌手、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン(写真)の『ファイナル・スタジオ・レコーディングス』(ソニー/写真)。

 ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンNusrat Fateh Ali Khan(1948/10/13〜1997/08/16)は、パキスタンのパンジャブ地方に生まれたシンガーである。
 彼は「カッワーリーqawwali」と呼ばれるイスラムの祈りの音楽を世界的に知らしめた張本人で、その大柄な体から飛び出る強烈な歌声によって、かつての「ワールド・ミュージック・ブーム」の象徴のような存在となった。
東芝EMI
 ヌスラットの歌のテーマはアラーを称えることである。
 ハーモニウムとタブラ、そして手拍子を伴奏として、ヌスラットを中心とした複数のシンガーたちが座りながら神への崇拝、その恩寵を歌う。
 一人が朗々と歌い出せば、彼を追いかけるようにして他の声が重なってゆく。
 伸びやかで緊迫感あふれるボーカル群は、しだいに熱狂の渦、法悦の空間を生み出し、人々をトランス状態へと持ち込んでしまうのである。
 ヌスラットはこのカッワーリーの第1人者だった人物だが、西欧で注目されたのはピーター・ゲイブリエルが資財を投げ打って開催した大イベント「WOMAD」に出演し、西欧向けにCDを発売してから(90年)からだった。
 伝統的なシンガーでありながら彼がユニークだったのは、その膨大なレコーディングの一部を使って、ロックやヒップホップを合体させることに抵抗感がなかったことである(例、97年に録音されたライブ『スワン・ソング』=写真)。
 そんなヌスラットの柔軟な姿勢は、本アルバム『ファイナル・スタジオ・レコーディングス』のプロデュースを、ビースティ・ボーイズを世に出したリック・ルービンが担当していることでも窺える(日本盤は2001年8月発売)。
 ただし『ファイナル…』は、『スワン・ソング』のような「挑戦的な」アルバムではな、く、ベイシックな伝統的セット。そして、『スワン・ソング』ではボーカルの衰えを指摘されていたヌスラットだが、こちらでは見事に「甦っている」。
 40代で惜しくも亡くなったヌスラットだが、彼が欧米各国(そして日本)を精力的にツアーして周った約10年の活動は、イスラムの教えから発生した音楽が、いかに豊かであるかを数多くの人々に知らしめたと言えるはずだ。
 日本では最新盤となるこの『ファイナル…』(アメリカ録音)は、この時期に、異文化を改めて考えなおす最適の1枚と言えるはずだ。
(おわり)
 
Nusrat Fateh Ali Khan http://www.nfak.com/
Amazon.com−ヌスラットのCD

 
 

( 2001/09/26 )

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