イスラムの音楽を聞く(番外)/アフガンからの緊急メッセージ
コロムビア OP7258〜62
 Beats21に、アフガニスタンから緊急メッセージが届けられた。
 差出人は、国連難民高等弁務官カンダハール事務所に勤務していた千田悦子(ちだ・えつこ)さん。この手紙は、彼女が、近づく戦争を避けて国外へ脱出する直前に友人、知人、そして日本人すべてに対して差し出されたもの。
 戦争を煽(あお)り、まるで喜んでいるような報道が続く中、この手紙は全く正反対の地点から「非戦」「反戦」を説く。
 (写真は、かつてのアフガンのミュージシャン。手に持つ楽器の胴体は、アメリカから援助を受けていたことを示すように、USA製の空き缶だ。LP『アフガニスタン民族音楽大系』から)
 
■「報道機関の煽る危機感」
 9月12日(水)の夜11時、カンダハールの国連のゲストハウスでアフガニスタンの人々と同じく眠れない夜を過ごしている。私のこの拙文を読んで、一人でも多くの人がアフガニスタンの人々が、(ごく普通の一人一人のアフガン人達が)、どんなに不安な気持ちで9月11日(昨日)に起きたアメリカの4件同時の飛行機ハイジャック襲撃事件を受け止めているか少しでも考えていただきたいと思う。
 テレビのBBCニュースを見ていて心底感じるのは今回の事件の報道の仕方自体が政治的駆け引きであるということである。特にBBCやCNNの報道の仕方自体が根拠のない不安を世界中にあおっている。

 事件の発生直後(世界貿易センターに飛行機が2機突っ込んだ時点で)BBCは早くも、未確認の情報源よりパレスチナのテログループが犯行声明を行ったと、テレビで発表した。それ以後、事件の全貌が明らかになるにつれてオサマ・ビン・ラデンのグループの犯行を示唆する報道が急増する。その時点でカンダハールにいる我々はアメリカがいつ根拠のない報復襲撃をまた始めるかと不安におびえ、明らかに不必要に捏造された治安の危機にさらされる。何の捜査もしないうちから、一体何を根拠にこんなにも簡単にパレスチナやオサマ・ビン・ラデンの名前を大々的に報道できるのだろうか。そしてこの軽率な報道がアフガンの国内に生活をを営む大多数のアフガンの普通市民、人道援助に来ているNGO(非政治組織)NPOや国連職員の生命を脅かしていることを全く考慮していない。
 1998年8月にケニヤとタンザニアの米国大使館爆破事件があった時、私は奇しくもケニヤのダダブの難民キャンプで同じくフィールドオフィサーとして働いており、ブッシュネル米国在ケニヤ大使が爆破事件の2日前ダダブのキャンプを訪問していたという奇遇であった。その時も物的確証も無いままオサマ・ビン・ラデンの事件関与の疑いが濃厚という理由だけでアメリカ(クリントン政権)はスーダンとアフガニスタンにミサイルを発射した。スーダンの場合は、製薬会社、アフガンの場合は遊牧民や通りがかりの人々など大部分のミサイルがもともとのターゲットと離れた場所に落ち、罪の無い人々が生命を落としたのは周知の事実である。まして標的であった軍部訓練所付近に落ちたミサイルも肝心のオサマ・ビン・ラデンに関与するグループの被害はほぼ皆無だった。タリバンやこうした組織的グループのメンバーは発達した情報網を携えているので、いち早く脱出しているからだ。前回のミサイル報復でも、結局犠牲者の多くは子供や女性だったと言う。
 我々国連職員の大部分は今日緊急避難される筈だったが天候上の理由として国連機がカンダハールに来なかった。ところがテレビの報道では「国連職員はアフガニスタンから避難した。」と既に報道している。
 報道のたびに「アメリカはミサイルを既に発射したのではないか?」 という不安が募る。アフガニスタンに住む全市民は毎夜この爆撃の不安の中で日々を過ごしていかなくてはいけないのだ。更に、現ブッシュ大統領の父、前ブッシュ大統領は1993年の6月に同年4月にイラクが同大統領の暗殺計画を企てた、というだけで同国へのミサイル空爆を行っている。世界史上初めて、「計画」(実際には何の行動も伴わなかった?)に対して実際に武力行使の報復を行った大統領である。現ブッシュ大統領も今年(2001年)1月に就任後 ほぼ最初に行ったのがイラクへのミサイル攻撃だった。これが単なる偶然でないことは明確だ。
 更にCNNやBBCは、はじめからオサマ・ビン・ラデンの名を引き合いに出しているが米国内でこれだけ高度に飛行システムを操りテロリスト事件を起こせるというのは大変な技術である。なぜ アメリカ国内の勢力や、日本やヨーロッパのテロリストのグループ名は一切あがらないのだろうか。他の団体の策略政策だという可能性は無いのか?
 国防長官は早々と戦争宣言をした。アメリカが短絡な行動に走らないことをただ祈るのみである。
 それでも逃げる場所があり、明日避難の見通しの立っている我々外国人は良い。今回の移動は正式には避難(Evacuation)と呼ばずに暫定的勤務地変更(Temporary Relocation)と呼ばれてい る。ところがアフガンの人々は一体どこに逃げられるというのだろうか? アメリカは隣国のパキスタンも名指しの上、イランにも矛先を向けるかもしれない。前回のミサイル攻撃の時はオサマ・ビン・ラデンが明確なターゲットであったが今回の報道はオサマ・ビン・ラデンを擁護しているタリバンそのものも槍玉にあげている。タリバンの本拠地カンダハールはもちろん、アフガニスタン全体が標的になることはありえないのか? アフガニスタンの人々もタリバンに多少不満があっても20年来の戦争に比べれば平和だと思って積極的にタリバンを支持できないが、特に反対もしないという中間派が多いのだ。

 世界が喪に服している今、思いだしてほしい。世界貿易センターやハイジャック機、ペンタゴンの中で亡くなった人々の家族が心から死を悼み 無念の想いをやり場の無い怒りと共に抱いているように、アフガニスタンにもたくさんの一般市民が今回の事件に心を砕きながら住んでいる。アフガンの人々にも嘆き悲しむ家族の人々がいる。世界中でただテロの“疑惑”があるという理由だけで、嫌疑があるというだけで、ミサイル攻撃を行っているのはアメリカだけだ。世界はなぜこんな横暴を黙認し続けるのか。このままではテロリスト撲滅と言う正当化のもとに アメリカが全世界の“テロリスト”地域と称する国に攻撃を開始することも可能ではないか。
 この無差別攻撃やミサイル攻撃後に一体何が残るというのか。又、新たな報復、そして第2、第3のオサマ・ビン・ラデンが続出するだけで何の解決にもならないのではないか。オサマ・ビン・ラデン がテロリストだからと言って、無垢な市民まで巻き込む無差別ミサイル攻撃を国際社会は何故、過去に黙認しつづけていたのか。これ以上、世界が危険な方向に暴走しないように、我々も、もう少し声を大にしたほうが良いのではないか。

 アフガンから脱出できる我々国連職員はラッキーだ。不運続きのアフガンの人々のことを考えると心が本当に痛む。どうかこれ以上災難が続かないように今はただ祈っている。そしてこうして募る不満をただ紙にぶつけている。

 千田悦子    2001年9月13日 筆

( 2001/09/27 )

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