特集 STOP THE WAR!・沖縄からの声(3)----照屋林助(よろず漫芸家)氏、城武端バイロン(ミュージシャン)氏
Beats21
 アメリカ人でありながら、沖縄の古典音楽や島唄をうたっているのが、城武瑞バイロン(Byron Jones/写真)さんだ。 
 バイロンさんは、三線を片手に「ABC」や「アメリカ国歌」もレパートリーとしている。
 父が海兵隊大佐、兄が海軍副司令官という家族を持ち、基地の島・沖縄で子どもたちにも音楽を教える彼の意見を聞いた。
 後半は、沖縄ポップの祖、照屋林助さん。かつての沖縄戦の体験者である林助さんは、戦争の背景にある人間の感情の恐さを語ってくれた。
 インタビュワー:藤田正(Beats21)。

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■城武端バイロンさん/小さい頃から沖縄大好き
----バージニア生まれのバイロンさんが、なぜ沖縄の音楽を?
 お父さんは海兵隊ですから、私が生まれる前から沖縄に行ってました。私もお土産をもらったりして、小さい頃から沖縄へ行ってみたいなと思ってました。
 アメリカの海兵隊というのは、全体の3分の1が沖縄にいるんです。だから、私がアメリカにいた時も近所の海兵隊の子どものほとんどは沖縄に住んだことがある。小学校1年生から高校卒業までの私のベスト・フレンドも、すべて沖縄生まれか、沖縄に住んだことがある人たちです。
----こういう沖縄と海兵隊の子どもたちとの関係は、あんまり知られていませんね。
 だから私は、ずっと沖縄に行きたいと思ってました。お父さんも沖縄が大好きだから、家族を連れて行きたかったみたい。お父さんが昇進で沖縄へ配属になった時、それは私が16歳の時(1985年)ですけど、初めて沖縄へ来ました。
----それからアメリカと沖縄を行ったり来たり。
 久場崎のハイスクールを卒業してから、アメリカの大学へ行って。でもその頃は、沖縄ブームの前だから、三線は見かけることはなかった。なかなか教えてもらえなかったし。昔の武道とかもそうでしょ。親戚とか近い関係の人にしか、(極意は)教えない。
 沖縄では「歌三線」と言うよね。沖縄の音楽をやれば、文化も言葉も一緒に習えて、そしてそれを次の人たちに残すことができる。だから三線が弾きたかった。
 大学1年終わってからまた沖縄へ戻ってきて。三線を習い始めたのは89年からです。 
 アメリカへ帰っても工工四(くんくんしー)が読めるようになったから、自分で弾いて練習していました。ワシントンDCの県人会の人たちに三線の先生をしたこともあります。
----オレゴン州立大学にいた時は、日本語の論文も書いたとか(2000年に、同大学の経済学部及び人類学部大学院を卒業)。
「日本の教育システムが沖縄の人に与えるマイナスの影響」というのがテーマです。
Beats21
■戦争を一番嫌いな人たちは、軍人たち
 昔の沖縄には「方言札」ということがあったでしょ。自分は、そういうことは沖縄の教育に悪い影響を与えたと思う。私は三線を通じて、沖縄の子どもに色んなことを伝えたい。だから学校で教えている。
----お父さんは軍人で、その息子であるバイロンさんが平和の象徴である三線を沖縄の子どもたちに教えている。今のアフガニスタンの戦争とか沖縄とか、どう思いますか。
 寂しいですね。自分から見ると、私は軍の中で育ってきたから、(軍人は)現代の侍という考え方をしています。
 戦争を一番嫌いな人たちは、軍人たちだと思いますよ。私はその中で育ってきたから、彼らの気持ちがわかる。
 また沖縄にいる者として見れば、私は沖縄というのは日本の中のマイノリティ、エスニック・グループだと思います。
----バイロンさんも、アメリカではマイノリティの一人ですよね。
 たとえば海兵隊の中でも、伝統的なもの(昇級制度)があって、大佐は大学を卒業した人じゃないとなれない。でもこれまで黒人たちはそういうチャンスが少なかった。
 私のお父さんは大佐だけど、私のお父さんが大佐になった15年前、在アジアのアメリカの全軍の中で、黒人の大佐はほかにいなかった。基地は将校と将校じゃない者が入れる場所を区切ってあるんだけど、私の家族が住む場所でも他の黒人は見たことがなかった。
 寂しいです。でも、世界の中でマイノリティ(の問題)はどこでも、おそらく一緒さ。
----バイロンさんのような立場だからこそ見えてくるものがある。
 アメリカの黒人って、チャンプルーだと思いますね。ヨーロッパの血、ネイティブ・アメリカンの血、アフリカ人の血が入っている。その中で、ネイティブ・アメリカンの部族や歴史や言語は判る。ヨーロッパもそう。でもアフリカからのものは判らない。その部分の自分の歴史は調べ切れない。
 反対に沖縄には、言語、文化という伝統が生きているでしょ。私は、これを理解しないのは、もったいないと思った。 
 私は、自分のすべての祖先を尊敬してる。ヨーロッパ人、モンゴロイドのネイティブ・アメリカ人、そして黒人を。私はクリスチャンだから、アダムもイブもみんな親戚だと思っている。
 だから社会で苦しんでいる人たちと、区別することなしに、付き合いたいんです。
BCY
■城武瑞バイロン デビューCD『宮城武瑞ぬ味ぐわー』
 2001年11月、城武瑞バイロンのデビュー・アルバムが発売された。
 タイトルは、『宮城武瑞ぬ味ぐわー』(みやぎじょーんぬ・あじぐわー)。
 琉球古典音楽の宮城克年との共演アルバムで、古典の「かぎやで風節」「安波節(あはぶし)」や、「安里屋ユンタ」「伊良部トーガニ」などの有名な歌が入っている。
 ユニークなのは、「アメリカ国歌」や、学校で子どもたちに教えるために「ABC」「トゥインクル・トゥインクル」などを三線で料理していることだ。
 税込み価格:2000円
 問い合わせ:キャンパス・レコード(tel:098-932-3801)
オーマガトキ
■照屋林助さん/戦時、健康な手首をナタで切った人がいた
----日本では健康、健康などと気を遣う時代に、また海の向こうで戦争が始まりました。
 今の健康というのは、病気と対峙させた言葉のわけです。昔はそうじゃない。
 健康論もないし、病気がどうしたという話もあまり聞かなかったし、それよりも「命が大事」だという話ばかりだったんです。
 太平洋戦争の時代は、戦争に行っても死ぬなよとか、弾が当たらないように願うんだよとか、日本の兵隊たちが天皇陛下万歳とか言って笑って死ぬというけれども、あれは全部ウソだ、とかと言ってね。
 そんなことは、いかにハッタリであるかを、親たちは徹底的に指導していたの。
 死ぬときは痛いよ、苦しいよ。笑って死ねだって、そんな馬鹿な話があるか、と。
 命というのはここ(心臓)にある、ここ(手首)にはない。
 だから命を救うために、自分の手をナタで切る。これが普通にあったんです、沖縄では。
----悪い病気におかされた手だからですか?
 いやいや、健康な手を、ズバンと切り落とすんです。

(写真は、照屋林助『平成ワタブーショー 1』)
----兵役検査の前に、醤油をがぶ飲みしたら体が悪くなるから懲役を逃れられる、なんて話は聞いたことがありますけど。
 15、6とかそれくらいの歳になると、やらされるの。手を切り落とせば、鉄砲の引き鉄が引けなくなるから。兵隊に取られないですむから。ぼくらの村にも、2、3人、そういう人を見かけましたもの。
 片目を潰すとか。徴兵忌避のために、すごいことをやっているんです。
----命が大切だからウォーキングをしましょう、というのとは大変な違いですね。
 長生きするために、それをやったんです。
健康とは何かといったら、まず生きることなんです。笑って死ぬことじゃない。
 しかしあの頃(太平洋戦争当時)の「健康」は、笑って死ぬことだった。人間として健やかであり、「健康」な精神の持ち主であると。
----そういう意味ではアフガニスタンの戦争も、「健康」と「健康」の戦いみたいなものですね。
 あの頃、戦って、めちゃくちゃになって、ああこれは間違いだったと気付いたことを、また再びやっているんだよ。
----今回の経緯を見ていると、戦争というものは、こんなに簡単に進んでいくものなんですね。
 教育というものは、ものすごいんですよ。あの教育も、この教育も受けた私たちとしては、非常によくわかるんだけれども、先生がそういう指導を小さい時からやっていれば、考えが凝り固まってしまう。
 まだ、ちょっと時と場所を変えれば、そういう教育が今でもはびこっているんです。
----誰かがもう止めようと言わない限り、この戦いはえんえんと続いていく。第3次世界大戦は、始まったんじゃないですか。
 そうですよ。 
 でも、誰かが止めようと言えばいい、ということだけれども、これは間違いです。
 すでに指導の段階から、誰かが止めようと言ったら反対に止められないと教えられている。止められないという気持ちが湧き出してくる。
 止めようという人が出てきて、戦争は止まらないんです。
----たくさんの人が死んでいるじゃないか、と言われれば言われるほど、当事者たちは何をお前は!となっていく。
 これが、止むに止まれぬ心情、ですね。
----日本の首相も、実にすっきりと発言し行動している。テロだから、やらなくてはなない。「国際社会」だからと。でも「国際社会」って、欧米のことですからね。
 沖縄戦、太平洋戦争の教訓が、未だに活かされていないんですよ。
(おわり)
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( 2001/11/22 )

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