秋の東京でOKINAWA:りんけんバンドと琉球フェスティバル'06
 10月8日と9日、東京でたて続けに「OKINAWA」があった。「琉球フェスティバル'06」と、りんけんバンドのソロ・コンサートだ。 
 どちらも今の沖縄音楽のありかたを示すいいライブだったと思う。
 琉フェスは新進の琉球チムドン楽団から、いつものようにトリを務める登川誠仁まで沖縄の島唄系ポップスありレゲエDJありのバラエティで勝負。翌日のりんけんバンドは、これまたいつものとおり、完成度の高い「あのステージ」を見せてくれたわけだが、その中に微妙な時の変化が見て取れたのだった。

「最初から、月光菩薩って〜かぁ」
 と声がかかる。
 新宿厚生年金会館で開かれたりんけんバンドのソロは、(いつものように)エイサー部隊のフロントの男たち3人と、歌姫・上原知子による「野獣&美女」の対比によって進行してゆくのだが、舞台中央で上原が両手を広げるや、暗くなったステージの裏から彼女の背に向かって強烈なスポットライトが当てられると、そこにおわしますのはまさしく燦然と輝く菩薩様なのじゃった!
 上原自身が縫い上げた見事な衣装と、整った目鼻立ちに浮き上がる「美景」は、上原だけの空間だ。
 フィナーレならまだしも、まだ始まったばかりだというのに…。
 でも、こういうことができるのは、上原知子だけだ。歌のうまさはもちろんのこと、徹底して沖縄文化の「ハレ」と「美」を描き出そうとするりんけんバンドにあって、やはり彼女の存在は、でかいと改めて思い知らされた。
 途中、キーボードがなぜか舞台を離れるという思わず笑ってしまう時間もあったものの、照屋林賢の父である林助の秀作「チブルや悪っさーしが(私はアタマは悪いけど)」などを取り上げてくれて、個人的には思い出深い歌でもあるので、これは特に嬉しかった(なにしろ、林賢と一緒にプロデュースした林助唯一のボーカル・アルバム『67の青春』の1曲目なのだ)。
 全体を通じて、大幅な変化はない。林賢も舞台の上から言っていたが、ステージングの基本を変えたくないのだそうだ…飽きるかどうかは聞き手の問題、ということなのかも知れないが、確かに彼らのステージは完成されているのだ。
 ちびっ子から老人までが一緒に楽しめるというポリシーのもと、胸を張ってウチナーを歌い上げる…しかし気がづけば、こういうグループって、今いなくなってしまったのだった。ごく近くにいたはずのネーネーズも、今どうなっているのか、ぼくは知らない。
 伝統的な島唄から、りんけんバンドのような「民族(民俗)色」の濃いポップ・グループが出て、さて次はどうなるのか? と考えていたけれども、林賢が作り上げた「完成品」のあとは、今ずいぶん別の流れへと沖縄音楽は動いているように思った。
 
左から川満シェンシェー、前川守賢
アルベルト城間(ディアマンテス)
/Beats21
 しっとりとした「屋嘉節(やかぶし)」から毛遊び(もうあしび)の「ヤッチャー小(ぐわー)」へ、そしてリズミカルな「六調」でフィナーレ。
 たった3曲の登川誠仁だったが、すごくいいボーカルだった。誠小先生(せいぐわーしんしー)は、体調によってライブにムラがある人なのだけれども、琉フェス'06での先生は良かった! 
 思わず「一期一会だな〜」と唸ったぼくだが、老境に入った大ベテランならではの得がたい実に渋いノドだった。
 で、なぜ「屋嘉節」から始まったのか? この選曲からして感激しているぼくだった。
 敗戦の沖縄である。この時、屋嘉にあった収容所で作られたとされるのがこの歌だが、「正調島唄」(こんな言葉はないけど)なのに、当夜はずいぶん新鮮味をたたえて聞こえたのだ。舞台から下りてきた誠小先生に、
「今日はなんで屋嘉節からだったんですか?」と訊ねると、
「わしぐらいは島唄を歌おうと思って」と、ハッとする答えが返ってきた。
「良かったですよ」
「そうだった?(そうは思っていないよう)」
「自由に歌っているように聞こえました」
「そう、自由には歌えた(嬉しそうな笑みがこぼれた)」
 スタッフにあとで尋ねると、この日の誠小先生は決して体調は良くなかったそうだが、だとすると当夜の3曲はなおさら貴重だったことになる。
 …しかし、「わしぐらいは島唄を歌おうと思って」という登川さんの一言は重いな。
 琉フェス'06の出演者は、登川誠仁、前川守賢、ディアマンテス、パーシャクラブ、大島保克、神谷千尋、琉球チムドン楽団、U-DOU&PLATY、中孝介、大山百合香(司会、川満シェンシェー)、というラインナップだった。奄美の中、大山を含めて、若手はずいぶんいいノドを聞かせた(神谷、充実!)。
 ディアマンテス、パーシャらのバンドも充実していたし、島唄から派生したアコースティック系の沖縄ポップがずいぶん充実してきたことをうかがわせる琉フェス'06だった。
 が、だからこそ誠小先生の一言なのである。
 次の日に見たりんけんバンドの、ある意味、十全なステージを含めて、沖縄の歌はグググ〜、と地殻変動を起こしていることは間違いないのだろう。
(文・藤田正)

琉フェス'06/Beats21

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( 2006/10/18 )

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