現代版組踊「大航海レキオス」(1):アジアを疾走する風
琉球放送
文・藤田正
 沖縄の若手演出家、平田大一とその仲間たちが「大航海レキオス」という舞台を作って話題になっている。
「レキオス requios」とは、パンフレットによれば「1600年〜1800年頃にかけて琉球人たちは世界の国々で[レキオス]と呼ばれていた」とのことだから、舞台は海外との交流・交易で成り立っていたあの琉球の時代をベースにしていることになる。
 海洋ロマン? いや、それだけではないだろう。
 逆賊を英雄に変えてしまった「肝高の阿麻和利(きむたかのあまわり)」を舞台にかけた平田大一らしく、彼はまたこの舞台で沖縄の歴史を「ひっくりかえそう」としているようだ。
 では、この舞台が沖縄の何を訴えようとしているのか、色々な角度から探ってみよう。
 
「大航海レキオス〜アジアを疾走する風」は、監修・宮本亜門、演出・平田大一、音楽・松永太郎、振付・仲里千賀子という主要メンバーによって作られている。出演は、チビッコたちもふくめた沖縄の若者たちだ。原作は三隅治雄の『大航海』。平田が新作の案を練っていた時、かつて自分が出演した「ミュージカル大航海」の資料を見つけ、「天からの啓示にも似た想いで夢中で企画書を書き上げ」たのである(平田の文章から)。
 若い人たちのエネルギーを舞台で全面に爆発させるのは、「肝高の阿麻和利」と同じ平田大一らしいやり方である。
「大航海レキオス」は、現代の組踊(くみうどぅい)と銘打っているように、ミュージカル〜音楽的な要素が色濃い。舞台に登場する「アカインコ(赤犬子)」「アカハチ(オヤケアカハチ)」「マムヤ」ら主要3名は、沖縄の歌や歴史をふり返ったことのある人には、(特に前2者は)欠かすことのできない存在である。それぞれ沖縄本島、八重山、宮古出身の、ナゾ多き人たちだが、平田大一は彼・彼女を「きょうだい」のような平等な立場で描いている。
 沖縄は歴史的に琉球王朝が他の宮古なり八重山を支配してきたがゆえに、歴史的な物語なり歌は、どうしても首里王朝や沖縄本島の支配階級のフィルターを通してのものが多い。平田大一は、まずこの常識を超えて(現代の若者の視点で)語ろうとしているのである。
 これがまず、面白い。と同時に、新世代のウチナーンチュらしいと思う。

「大航海レキオス」は、2005年1月29日、那覇市民会館で初演され、3月13日の宜野湾・沖縄コンベンション劇場で第1回の日程を終えた。琉球放送創立50周年記念事業ということもあり、大盛況のイベントだった。沖縄の歴史の根幹を、分かりやすく理解する上でもこの舞台はとても面白い(特に青少年には)。
 この夏には、本土でも公演が計画されているようだが、それは、この連載で追ってお知らせすることにする。
 次回からは、アカインコ、マムヤという、いっぷう変わった名を持つ存在とは何者であるかを語ってゆこう。

「大航海レキオス」ホームページ:
http://www.tao-factory.com/content/view/24/53/

amazon.co.jp-藤田正著『沖縄は歌の島―ウチナー音楽の500年』(アカハチほか、沖縄の芸能と歴史がどのようにリンクしているのかを、分かりやすく解説。ミニ事典つき)

( 2005/04/21 )

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