生誕百年のジョージ・ガーシュイン
Nonseuch-WEA
<1998年10月>
 今年はジョージ・ガーシュインが生まれてから百年目にあたるので、これを記念する企画がいろいろと立てられている。
 ジョージ・ガーシュイン(一八九八〜一九三七)は、アメリカのクラッシック、舞台演劇、ポップス界を股にかけて活躍した大作曲家である。「ラプソディ・イン・ブルー」「ポギーとベス」「ザ・マン・アイ・ラブ」など、短い生涯にもかかわらず、彼の作品(作詞は兄のアイラ・ガーシュインがほとんどを担当)は今でも頻繁に歌われ、あるいは演奏されている。ジーン・ケリーが主演した映画『パリのアメリカ人』も彼の作品をもとにしたヒット・ミュージカルだし、ウッディ・アレンの『マンハッタン』では全編、ガーシュインの作品が使われていた。
 彼の作品はオーケストラ用のものから小品まで、その形式は多岐にわたっている。だが、小難しいものはほとんどない。覚えやすい美しいメロディやフック(聞き手の耳をそばだ立たせる箇所)がどこかに配置されている。一般の人たちが喜びそうな「サービス」を心得ていた人だったとぼくは思う。作風もとてもモダンである。
 逆に言えばこのあたりが、日本のクラシック界にとっては彼が別ものとして扱われている理由でもあるのだ。
 ガーシュインは今世紀のアメリカの繁栄を象徴するような音楽作家だった。移民の子として生まれ、若い時から才能が世間に認められていた人物である。彼の代名詞ともいえる「ラプソディ・イン・ブルー」を書いたのが二十代の半ば(一九二四年)。すでにその頃には、彼はニューヨークを拠点とした芸能界ではひっぱりだことなっていた。
 ブロードウェイ、蓄音機、ラジオ、映画、そしてアメリカにおける音楽著作権管理の整備など、彼が生きた時代は、テレビを除いて、まさにアメリカを中心とする今世紀の巨大産業としての音楽メディアが出そろった時である。いわゆる「マスメディアと大衆文化」だ。クラシック出身のガーシュインもその中枢で活躍し、大衆(当時は、そのほとんどが白人だったけれども)が何を望んでいるのかを常に意識し曲を書いた。ガーシュインの作品が「分かりやすい」のは、こういう側面が大きい。
 ガーシュインを特徴づけるもう一つの歴史的要素は黒人音楽である。ラグタイムからジャズへと続く、白人社会内における黒人文化、あるいはマイノリティ文化の理解も、これまたガーシュインの時代を境に一気に加速していく。ストラビンスキーほか、彼に先駆けてジャズやネイティブ・アメリカン(インディアン)の音楽に関心を持ったクラシックの作家はいるが、ガーシュインの場合には、黒人音楽のダイナミクスが自然と作風に表わされているのが特色だ。まさに「アメリカ的」なのである。
 この姿勢が明確に表わされたのが、彼の晩年に初演された名作「ポギーとベス」(一九三五年)。これは黒人のオペラである。
 ガーシュインの作品集として、手ごろなCDを二つ紹介しよう。
『ベリー・ベスト・オブ・ジョージ・ガーシュイン』は、サラ・ボーン、オスカー・ピーターソン、アーサー・フィドラーほか、ジャンルを越えた有名アーティストがズラリ登場する廉価盤二枚組。ただし日本語の解説は、いいかげん。
『ザ・ピアノ・ロールズ』は、昔の自動ピアノに彼自身が演奏・記憶したものを、現代のコンピューター〜ピアノで再演奏させたもの。ピアノの名手としても知られた彼の「生の演奏」が聞ける。
*『Gershwin Plays Gershwin: The Piano Rolls』(realized by Artis Wodenhouse; Nonseuch-WEA 7559-792872)

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