沖縄には別れの曲が多い
Victor
<1998年7月>
 ビクターが沖縄専門のレーベルをスタートさせた。名前を「nafin」(ナーフィン)という。
 ナーフィンをスタートさせたプロデューサーの神谷一義によれば、このレーベルは普久原 朝喜ふくはら ちょうき (一九〇三〜八二)という人物を大きなポイントとしている。神谷一義はネーネーズや大工哲弘をヤマト(本土)に紹介したあと、どうやら次のステップを「ちこーんき・ふくばる」に決めたようである。
「ちこんきーふくばる」とは普久原朝喜のニックネームで「蓄音機の普久原」ということ。朝喜は、現代沖縄民謡の父と呼ばれる人物である。
 彼は一九二七年(昭和二)年に大阪で設立した「マルフク・レコード」を拠点にして、数々の名作を発表したことで知られる。作家としてだけでなく、朝喜自身が三線の名手であり、妻の京子も歌の名人、そして録音したSPレコードは自らが売って歩いたという、いま流行りの「インディーズ」の大先輩のような人物であった。
 朝喜は「懐かしき故郷」「軍人節」ほか歴史的な作品を遺したが、この遺産・精神を今のこの時代に引き継ごうというのが、ナーフィン・レーベルの意図のようである。ナーフィンの総監修を担当するのが、普久原 恒勇ふくはら つねおである。彼は朝喜の息子であり、「芭蕉布」ほかの作品で現代沖縄音楽のトップをゆく作家でもある。
 ナーフィン・レコードほど大がかりではないものの、実は沖縄で朝喜の名前はちょくちょく話題にのぼる。歌手たちも彼の名前を忘れることなく、機会があれば作品を取り上げるし、朝喜と同時代の名作も、あるいはそれ以前の歌も、普通に歌い継がれている。
 こんな歌のあり方が、ヤマトの人間であるぼくには、とても興味深く、たまにうらやましい。最近の沖縄は、ずいぶんヤマト化されたとはいえ、まだまだ沖縄音楽は充分に生きていると、ぼくは感じる。そんな流れの中に、ナフィンがあるということである。
 ナフィンから出た普久原恒勇『雅倩三面』 がせいさんめん は、沖縄からアジア、そしてヨーロッパまでを視野に入れ、それらに共通する音をつかもうとする意欲作である。父・朝喜は移民・移住をテーマにした作品を数多く作ったが、息子はその逆を行こうとしたかのようなアルバムだ。
 音の気分は、新・琉球古典というような格調あるたたずまいである。「紡績節/副業節」は、三線(恒勇)のインストという沖縄音楽では珍しい試み。ラストを飾る「華曲 雅倩三面」は、これも珍しいクラリネットと三線のアンサンブル曲で、沖縄と中国との長い文化的交流をはっきりと聞くことができる。
 普久原朝喜の作品を中心にしたアルバムが『懐かしき故郷/山里ユキ』(写真)である。山里は「嘆きの梅」などの代表曲を持つベテランの民謡歌手。伴奏の三線普久原恒勇が担当している。こんな歌が収録されている。
「大阪島近さ、ブラジル逃んぎろや」(大阪は近い、ブラジルまで逃げましょう/徳之島チュッキャリ節)
『懐かしき故郷』は世界に散っていった沖縄の人々と歌との関わり、戦争という名の離別などがテーマとした、しっとりとしたいい作品だ。
 それにしても、沖縄には別れの曲が多い。故郷と離れ、恋する人と離れ、家族から引き離されたという厳然たる事実を、沖縄の歌手たちは優れた歌たちによって「記録に留める」。こういう姿勢は、長くヤマトのポップ・ミュージックでは忘れ去られてしまっている。いったいどちらが「正解」なのだろうか。
 
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( 2003/01/31 )

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