沖縄特集IV 海人(うみんちゅ)が神と交わる「海神祭」
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 2001年6月24日は旧暦では5月4日である。この「ゆっかぬふぃー(四日の日)」に沖縄では「ハーリー」が行なわれる。 
 ハーリーは海からの豊穣を神に願う「海神祭」のフィナーレを飾る大イベントで、漁師たちが爬龍船(はりゅうせん)という小ぶりの舟を漕ぎ、力を競いあう。今年はハーリーが新暦の日曜日と重なったこともあり、八重山の石垣港でも普段に増して大勢の見物客が集まった。
 ハーリー〜海神祭は漁師の祭りである。沖縄では漁師のことを「海人(うみんちゅ)」と言うが、彼ら褐色の男たちがこの祭りを取り仕切る。海神祭は神(先祖)に祈りを捧げる神事に始まり、喜捨の依頼、爬龍船の整備、レースのトレーニングなど、関係者は約半月ほどは日常の仕事が手につかないほどだという。ハーリー当日の前後は、漁師が休みのために鮮魚の水揚げもストップ。
「ハーリーが終われば夏」という季節の変わり目だけでなく、海神祭は沖縄の伝統的な文化、価値観を象徴する重要な祝い事であるだけにその舞台裏にはある種の緊迫感に包まれていると言えるかも知れない。
 (写真は、ハーリー競漕で勝ち名乗りをあげる人々)
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 2001年6月24日午前8時、「平成13年度石垣市爬龍船競漕大会 海神祭」がスタートした。舟揃え(スネー)、選手宣誓、祝いの踊りなどを経て、競漕が始まったのは午後10時であった。
 まずは「御願(うがん)ハーリー」である。その名前のとおり、神に願をかける座開きの競漕である。石垣漁港をベースとする海人、およびその仲間たちが、東1、東2、中1、中2、西と地域ごとに分かれ1着を競うレースである(実際は東1組、東2組、中・西合同の3組によるレース)。
 漕ぎ手10名、舵取り(カジトゥヤー)1名が乗り込んだ爬龍船が、400メートル向こうにある目印に向けて走り出した。舟を見送るのはドラを鳴らす各組の少年たちや小太鼓(パーランクー)を叩き続ける女たち。石垣港の両岸壁に陣取った見物客からも喚声が起こる。
 (写真は、女たちの勝利の踊り)
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 神(先祖)をその肩に負い、漁師としてのプライドと地域の面目をかけた闘いは、石垣漁港3往復(2400メートル)という過酷なレース設定によって、いやおうなく熱気を帯びる。なぜなら小さな爬龍船は向かい風や横風に弱く、また計5回ある折り返しポイントで舟のスピードはいったんゼロに戻るからである。
 岸辺で囃す女たちの声と太鼓が、舟がはるか向こうの折り返しに達した時、一気に大きくなるはそのためだ。ハーリーは相当な体力とチームワークを要求される「神事」なのである。
 石垣ハーリーの中心となるのは、海人が主体となった「御願ハーリー」「転覆ハーリー」「上りハーリー」の三つのレースだった。転覆ハーリーは、1600メートルを漕ぎ切るその途中で2度、舟を転覆させなくてはならないレース。「上りハーリー」は祭りの最後を飾る2400メートルのレースである。
 この海人のハーリーの間に、女性だけのハーリーや各会社の有志が集まったいくつものレースが行なわれる。
 (写真は女性のハーリー)
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 石垣港でのハーリーも、初めから終わりまで舞いも音楽も止むことはなかった。
 勝った海人のチームが勝ち名乗りを上げて湾内を誇らしげに廻る時、応援してきた女たちがここぞとばかりに祝いのカチャーシーを踊り出すシーンは、全身に喜びがあふれ、その姿が本当に美しい。
 もちろんハーリーが終了したあとも音楽と舞いは途切れることはなかった。
 表彰式が行なわれている頃、一足先に各組のテントに集合した女たちは自分たちだけの祝いの舞い、カチャーシーを踊る。男たちが爬龍船で戻って来れば、神への挨拶のあと、今度は男だけが舞うのである。
 その次が祝賀会だ。各組がそれぞれに仮設の舞台を設え、別々のシンガー、踊り手を招き、みんなで歌い舞う。
 中1組に招かれたのは石垣をベースに活動する安里勇とその一行だった(写真)。
 その苦みばしったスタイルが本土でも人気の安里勇は、格調高い祝い節をうたい、カチャーシーの歌で踊らせ、約3時間、寸劇も交えながら徹底したエンタテインメントを披露した。
 大事な祝い事であるからには、心から祝い、喜ぶ、という「鉄則」。
 天がはじけたような暑さの中、赤銅色の男たちの笑顔は島の歌と舞いに芸術的なほどにシンクロした「ゆっかぬふぃー」だった。

( 2001/06/28 )

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