冬休みにゆっくり読みたい音楽関連ブック(1)…新しい世界のかたち
明石書店
 キャリル・フィリップスという作家が書いた『新しい世界のかたち』が面白い。
 サブタイトルに「黒人の歴史文化とディアスポラの世界地図」とあるように、世界各所へ散らばったブラックたちの文化、ココロのありさま、深い問題の根を、主に黒人作家の著作を通じて描き出そうとしている。
 本文450ページという分厚い書物だが、黒人音楽〜黒人文化に関心ある人には、最新の評論の一つと言っていいだろう。
 キャリルは1958年、カリブのセント・キッツに生まれたイギリス在住の黒人作家で、日本では知られた存在ではない。ぼくも本書で初めてこの人の名を知った。
『新しい世界のかたち』は、アメリカ合衆国の章から始まり、アフリカ、カリブ、英国へと続いてゆく。そのどの地域にも黒人は暮らしていて、そこに深刻な差別があるのだが、当然のように歴史的背景や社会事情がことなるがゆえに各地で活躍した作家やミュージシャンの「姿・形」「思い」は大きく異なる。
 もちろん、そのすべてを、ブラックと一言でくくれるはずもない。
 フィリップスはこの複雑を、ていねいな筆致で解きほぐしてゆく。そして、
「アメリカ社会はアフリカ系アメリカ人男性から男らしさを奪おうとしている。そのため彼らは、誰にも頼らない、感情もみせないと、ことさら誇示するのだ。虚勢だけが彼らに自由になる道具であり、それを使って男としての領分を守ろうとするのである」(111ページ/「合衆国」の章」、訳・上野直子)
 という、現在の黒人スターのあり方にも通じる要点を提示してくれるのだ。
 スピルバーグによる歴史映画『アミスタッド』への批判では、黒人の描き方から発展し、この映画監督のどうしようもない志向性が浮き彫りにされる。マービン・ゲイと父親の、奇妙な性癖をレポートしながら、黒人の「男」とは何かを考えさせる「マーヴィン・ゲイ」のページもなかなかだ。
 
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( 2007/12/19 )

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