沖縄音楽の最高峰・登川誠仁『Spiritual Unity』
RESPECT RES45
 これまでBeats21では、登川誠仁(のぼりかわ・せいじん)をたびたび紹介してきた。経歴などは他のページ、アーカイブを参照願いたい。ここでは、彼の新作アルバム『スピリチュアル・ユニティ』の全曲目を紹介する。

1 くんじゃんジントーヨー:登川の代表曲の一つ。これまでは「国頭ジントーヨー」と表記してきたが、ウチナーンチュ(沖縄の人)以外は、正確にはまず読めないだろうというプロデューサー(藤田正、中川敬)の判断で、表記を直した。
「国頭(くにがみ)」とは、本島北部の地域を指す。これまで様々な歌によって、山と海しかない田舎とうたわれてきた場所で、「くんじゃんジントーヨー」もこの趣旨に沿って物語が展開する。何もない場所だけど、私という花が咲いていますよ、という泣かせる内容である。歌と演奏は、登川を中心とした「登川流」の精鋭たちと、ソウル・フラワー・ユニオン(SFU)の共演。切ないメロディを登川流のめんめんだけでうたい出し、少しずつアコーディオンなど洋楽器が増えてくる音の景色が抜群。
2 なりたい節:登川誠仁が生来持つファンキーな部分を突出させた歌。登川配下の美声の持ち主、金城みゆきとのデュエットで、あなたの寝室にいるウグイスのようになりたい、腰に巻きついたあなたのベルトのようになりたいと、彼氏彼女に言い寄る愉快なラブ・ソングである。
 バックは、伊丹英子のチンドン太鼓と中川敬のディストーション・ギターを中心としたSFU。これに登川の渋みを効かせた声、軽やかに弾む三線(&六線)、そして金城の透き通った声が絡むという、これまでの沖縄音楽にはなかった世界が聞ける。

3 安里屋ユンタ:八重山(やえやま)は竹富島(たけとみじま)に根を持つ高名な歌。登川流だけの演奏である。島太鼓は登川のダビング。
 コクのある登川のボーカルが生きた歌であると同時に、彼の六線の音が、凄まじいピッキングによって鳴らされていることがこの「安里屋(あさどや)」で如実にわかる。これほど力強い三線(〜六線)を弾く人は、登川の外にいない。

4 戦後の嘆き:一転して、登川の独唱。
 太平洋戦争によって親も家もなくし一人ぼっちとなった若い元兵士の姿をもとに作られた歌。実話である。登川にとって代表的な哀歌だが、なかなか舞台で聞くことができない。なぜなら、彼自身が泣いてしまうから。今回の録音は、最初から相当に気合いが入っており、テイク・ワンだけで終了。ラストに出てくる「誰も恨みはしない。ただ、戦争を始めた者だけを私は恨む」という歌詞は、アドリブである。
RESPECT RESD46
5 緑の沖縄:沖縄限定のシングル・カット曲(写真)。
 中川敬とのデュエットで歌われる沖縄賛歌である。バックをつけるのはSFU。
 覚えやすいメロディを持つ「御当地ソング」で、普通にうたえば安っぽい観光ソングに落ちてしまうものを、二人の根性を入れたドッシリとしたボーカルは、この歌の本質である「どんなことがあっても俺はこの島を愛し続ける」というメッセージを、はっきりと伝えてくれる。

6 祝い節:アップ・テンポの祝い歌。登川が島太鼓に六線、これに伊丹英子のチンドンが加わり、お囃子は流派の女性たちが担当している。
 よくよく考えると、沖縄の伝統音楽ではちょっと考えられない変わった編成なのだが、まるで何事もなかったようにスムーズに、軽快な歌として聞こえてしまうのが、逆に凄い。
7 ナークニー〜ハンタ原(ばる):この「ナークニー」がきっちりとうたえて、初めて真っ当な歌手として認められる。かつての「毛遊び(もうあしび)」の最重要曲。
 教訓から恋歌まで、自在に歌えてこその「ナークニー」だが、さすが登川誠仁はスバ抜けている。一つ一つの言葉の選び方、その言葉と三線の併せ方が絶妙である。
 しみじみとした内容の「ナークニー」から、一転してアップ・テンポの「ハンタ原」へ。さぁ踊るぞ、朝まで遊ぼうという幕開けのような雰囲気だ。教訓的な内容の「ナークニー」から、恋歌へと歌詞がドラマチックに変わるのも面白い。
 金城みゆき(前半)と二人だけの歌と演奏。

8 新デンサー節:八重山は西表島(いりおもてじま)で作られた有名な古謡「デンサー節」を、登川誠仁が独自の解釈でアレンジし直した歌。ボーカルは、登川流の女性のみ。
 中川敬が幻想的なキーボードを担当し、南の島の歌というよりも、アイルランドなど北の島〜クニとの共通項を感じさせる仕上がりになっている。

9 ヒヤミカチ節:これも登川誠仁の代表曲。「起てよ沖縄!」という感動的な歌。戦後の沖縄音楽で、これをベスト・ソングに挙げる人は多い。登川誠仁と照屋林助が世に広めた歌でもある。
 「ヒヤミカチ節」は、登川が島太鼓をコンガのように手で叩き、その上に琴や三板(さんば)が乗っている。エレキ・ベースは中川敬。登川はこの曲でだけ三線を弾いている。
 最近の「ヒヤミカチ節」は、相当にアップ・テンポで、ただ威勢のいいものが多いが、登川はメッセージ性の強い歌だけに、きちんと言葉が伝わるようかみ締めて歌っている。
 
10 油断しるな:「するな」ではない、「しるな」である。世の中は動きが早いから油断をせずに働こうという内容である。登川流のめんめんと、伊丹英子のチンドンが絡むという異色の組み合わせ。しかし、これもまるで「正調」に聞こえるのが不思議だ。

11 島の花:歌は金城みゆきら女性陣が担当し、登川は六線と太鼓を担当している。アルバムの中でも、特にさわやかで、小気味良い1曲に仕上がっている。
 登川誠仁の六線、女性陣のユニゾン・コーラス、山内貴祐(やまうち・きゆう)の琴ほか、それぞれが実にカラフルな味わいを出していることに注目。

12 具志川ナークニー:数ある各地の「ナークニー」の一つ。知名定繁(ちな・ていはん)の持ち歌として知られる。
 「具志川ナークニー」では、堂々とした登川の「歌三線(うたさんしん)」が聴ける。
 内容はラブ・ソングに始まり、本島・具志川あたりの地域名をアドリブ風に織り交ぜてゆく。その中で、ちょっとした冗談を入れるのがポイント。しかし、これを意味を知らずに聞いた場合、彼の歌と三線の迫力によって、実に真面目な歌と思い込んでも不思議ではない。登川誠仁、あるいは沖縄の即興性の強い歌を得意とするベテランは、おおよそこういうポーカー・フェイスで「妙な歌」をうたうのである。

13 ゆしぐとぅぬ宝:一聴、地味な合唱曲だが、本アルバムでも屈指の録音。登川流だけの演奏である。
 登川を中心としたボーカルが味わい深いのは当然として、問題はその音のミックス&バランスである。一般にこのような合唱曲において、リーダーがみんなの一歩前で聞こえることはない。また太鼓や三線も後ろで上品に控えるのが沖縄伝統音楽の常識である。「ゆしぐとぅぬ宝」は、この常識を逆転させている。
 つまりロックやソウル的な解釈を持ち込むことにより、登川一派がどれほどの重量感を持つ一団であるかをはっきりさせた1曲。
 歌の内容は、先人から伝えられた人生の教訓を切々と訴える。これが、また泣かせる。
RESPECT REC.
14 かたいなか:これまで「片田舎」と表記されていた歌。
 うきうきしたリズムで実に楽しい歌だが、内容的には「くんじゃんジントーヨー」と共通点を持つ。こんな田舎だけと、一緒に助け合って生きていこうね、そうすれば人生はまるで違ったものになるよね、とうたう。
 こういうキュートな作風というのは、登川誠仁の隠れた特徴なのかも知れない。

15 旅の空に:金城みゆきのソロ。情深い彼女の声の特徴がきっちりと活かされた恋歌である。登川は六線で彼女をフォロー。
 歌は、今や離れ離れになった恋しい人に、なんとか自分の心を伝えなくてはと心を痛める女の姿がテーマとなっている。沖縄には「浜千鳥節(ちじゅやーぶし)」という、数々のバリエイションを生む哀歌があるが、おそらくこの歌もその一つと思われる。
16 うたのこころ:アルバムのラストも、登川を中心とした流派の合唱曲。「ゆしぐとぅぬ宝」と同じように、地味に見えて、なかなかにカッコのいいクールな歌・演奏である。
 歌の内容は、世の中の移り変わりと人の心を詠んだもの。
 ただこの歌には凄い文句が隠されていて、それは、世の中は義理も情けも薄くなっていく、それに連れて反対に、沖縄・歌・三線は世界の誇るべきものへと浮上するというメッセージである。
 ずっしりと格調高く、こう平然とうたう登川誠仁は、やはりただ者ではなかった。

*シングル収録曲* 豊節(ゆたかぶし):各エイサー団体がレパートリーに取り入れている、これも登川の代表作の一つ。タイプとしては「うたのこころ」などと系列は同じ。

( 2001/04/21 )

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