11月28日〜11月30日 しょうちゃんの蛇に三線/藤田正
「gatta-gatta」
十一月二十八日(水)

 練習というものはいちど休むとモドリは遅い。運動だろうと文章だろうと同じ、三線も同じだ。だから困っている。ただでさえ日々のプレイはガタガタなのに、本日はガッタガッタ。チンダミ(調弦)ですら時間がかかって、ちゃんとやったつもりなのに微妙に狂っている。耳も音楽的じゃぁなくなるのだ。やる気がなくなって、ヘコむぜ。ポコン。
「ウンタマギルー」
十一月二十九日(木)〜三十日(金)

 二十九日の夜でした、さて寝るか「りん」よと、カタワラのわが三線に問えば「うん」とこたえる仲のよさ。ふたり抱き合いながらふとパソコンの画面を見れば、なんと、ウンタマギルーをタダで上映とあったではござらぬか。皆の衆、運玉森の義留でござる。伝説の義賊、ウンタマギルー。眼がさめちゃった。ギルーについては過去に何度もフィルムになったそうだが、ワシが知っているのは高嶺剛監督の『ウンタマギルー』(一九八九年の作品)。この高嶺ギルーが「Yahoo!動画」で無料でパソコン鑑賞できるのだ(とちゅうで広告が何度も入るけどね)。
『ウンタマギルー』をヤマトの人が初めて観たとして、ほぅこれはよくわかると思える人は少ないだろう。ぼくにしても当惑当惑、ちんちきぷんぷんの映画としてマズは出現した。でも、これもよく言われることだが、ワケがわからなくとも、土俗的な匂いは強烈だし、見たこともないイメージばかりだし、劇場に電気が点ったあとも、ボーっとなる映画ではあったのだ。その後、少しずつ沖縄の音楽が好きになってくると、同時進行的に高嶺監督のいわんとしているところ(の、ところどころ)が、わかるようになってきた…そんな、味わい深い、というか、味わいの深さを感じるのにそれなりの時間を要する名作が『ウンタマギルー』なのだった。
 ひさしぶりにみた『ウンタマギルー』は、むる上等やっさー。ぼくのそばで三線が一緒にすやすやと寝息を立てているからなおさらだ。というのも『ウンタマギルー』は、沖縄の聖的な存在であったブタと、人間さまとが、長い長い年月のあいだ、深いマジワリを続けてきた島の民俗を描いているからだ。人間の食い物であり、人間のウンコをエサに生きているブタこそが、人間にとっての聖と性とを内在させていると考えたウチナーンチュ。ブタはウチナーンチュにとってただの家畜ではなかった。その濃厚なエロチシズムが高嶺ギルー映画の基調となるビート感なのだ。
 …と、えらそうなことを言っておるが、こんなことを教えてくださったのも照屋林助さんだった。あの人は本当に知的で博学な音楽家で、一緒に作った氏のラスト著作『沖縄の神さまから贈られた言葉』を作っているときに、このブタとヒトの伝説が氏の口から出てきた。高嶺監督が、この映画をプレミア上映したとき、ブタの化身である美女と主人公が愛を交わすなんて、われらの沖縄ではありえない! と怒ったウチナーンチュがいたそうだが、なるほど『ウンタマギルー』はもはや伝説となりつつある沖縄の前近代のもろもろを、島の現在(米軍支配下の六十九年)にぶちまけた、すっごい作品だった。そう、日本政府や米軍の野郎どもへ沖縄の前近代という「神聖なる汚物」をぶっかけている独立革命作品でもある、これは。
 今では可愛い妖怪のように言われて、観光に一役かっているキジムナーも、高嶺は大自然の超マジカルなパワーを意識して生きてきた沖縄人の心の象徴として表現している。
 キジムナーもヒトなのだ。三線もヒト、であるように。
 そして、キジムナーが二挺のホンモノの鎌を振り回して踊る素晴らしいワザのバック演奏ってのが、なんと若き日の登川誠仁さんなのだ。これだけでも、ああ! ワシ、寝むれんぞなもし。
 …と語やびら高嶺ぬ運玉義留、なのだが、オープニングが照屋林助&ヒズ・バンド。林助さんが戦後のウチナー・ポップ&ロックの原点だったという事実は、この映画でちゃんと描かれている(今は、ほとんど語られることもなくなった、氏の一本の弦だけの三線プレイも登場してまっせー)。嘉手苅林昌さんも、今となっては、めちゃくちゃもったいない登場の仕方で「唐船ドーイ」を画面の向こうで歌ってる。

『ウンタマギルー』(〇八年四月二十三日まで)
http://streaming.yahoo.co.jp/p/t/00026/v01409/
晶文社
amazon-『沖縄の神さまから贈られた言葉/照屋林助

( 2007/11/30 )

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12月1日、12月2日 ≪しょうちゃんの蛇に三線≫
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『照屋林賢のだれでも弾ける簡単沖縄三線入門』
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