北野武版『座頭市』に大きく貢献した鈴木慶一の音楽
松竹/オフィス北野
 大ヒット中の北野武版『座頭市』(主演・ビートたけし)は、剣劇のスリルある娯楽性の中に、人間が持つ「闇」を巧みに忍ばせた作品として高いレベルを示した。
 かつての勝新太郎のイメージが圧倒的な「座頭の市」だけに、新版がどのように描かれるかが多くの人々の関心の的だったが、北野武は勝新バージョンとは大きく異なる視点で主人公を描き切った。そして、その見事な構成に貢献したのが、鈴木慶一(ムーンライダース)の音楽だった。

 冒頭に、鍬で田を耕す数人の農夫が出てくる。座頭の市が流れてやってきたこの村は、疲弊し、さらにどこからしら血と暴力の匂いがする。
 …この、映画の大前提をさらりと(かつ不気味に)描いてみせる映像構成もしっかりとしたものが、さらに、この農夫たちがただ田に入っているのではなく、BGMに合わせて鍬で「リズムを取っている」というのが面白い。
 それは、これは娯楽映画なのだという北野流のクスグリを入れた場面、という指摘もできよう。だが、それだけではない、というのが最後の最後になってわかるのである。
 勝新の『座頭市』が、戦後におけるヒューマニズムを土台とした名シリーズであるとするならば、北野のそれは(彼の基本的な作風とも言える)人間の奥底に潜む暴力性、グロテスクなるものを主人公に背負わせた作品である。だからこそ、今回の座頭の市は、髪の毛の色をはじめとして、外見すらも周囲とわざと浮き上がるようにしてデザインされているのだろう。彼は、ある意味「異界から訪れた神」なのかも知れない。
 また、座頭市の好敵手となる侍(浅野忠信)も、好きで用心棒をやっているわけではなかったのに、その血塗られた生活が、彼の心をも蝕んでしまう。それが浅野の、人を斬る時の、薄ら寒い小さな笑みに上手に描き出されている。
 つまり、ワケあってしょうがなくて殺した、のではなく、斬りたかった、人をつぶしてやりたかった、という、言葉にならない激情が座頭市の仕込杖を中心に映画を支配していく。
 娯楽映画であるはずなのに、なんともいえない緊迫感を持続させるのが、これである。
 鈴木慶一の音楽はまず、そんな彼ら「殺人者たち」の感情を、うまく音像として描いた。
 そして、リズムだ。北野映画の音楽的パートナーと言えば、これまでは久石譲が筆頭だったが、久石と鈴木の違いが、リズムにはっきりと出た。ヨーロッパ・クラシック音楽〜現代音楽の久石、ロック〜黒人音楽の鈴木、という二人の出自だけではこれは片付けられないことではあるものの、本作品のもう一つのテーマである「民衆の活気」を音楽として描く、という意味で、鈴木の多様なリズムの使い方は適切であり、映画にさらなぬエネルギーを与えた。
 冒頭に出てきた農民の鍬のリズムも、もちろんそうだし、殺人と暴力が積み重ねられてゆく緊迫した状況から、村人たちが解放と再建へ向かって少しづつ前進しようとする時、鈴木慶一が作った「リズム」が湧きあがってくる。大団円となるフィナーレの群舞(タップ・ダンス)も、その流れの中にしっかりとはまっていたのだった。
Dreamusic MUCD1093
 映画『座頭市』は、北野武の作品の中でも画期となる名作である。
 わかりやすく、娯楽性に富み、それでいて(最近のハリウッド映画とは正反対に)観た者に人間を考えさせる力学を内包している。
 黒沢明監督の優れて音楽的な名作『どん底』(1957年)と対比してみても、充分にテーマが広がる作品であった。
(藤田正)
 *写真は、鈴木慶一による『座頭市』のサントラ。
 
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( 2003/10/08 )

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