ギリシャが生んだ新世代のテノール、M・フラングーリス
Sony rec.
 この分かりやすさと、あふれるロマンチシズム。マリオ・フラングリース(写真)は、日本でもクラシック、ポップを問わず人気が出るのではないだろうか。
 すでに母国のギリシャでは、スター・シンガーとして爆発的なセールスを上げている存在だが、本作『マリオ・フラングーリス(原題:Sometimes I Dream)』(写真)は世界進出を目論んだ彼の意欲的第1作である。クラシック出身ながらその堅苦しい枠にこだわらず、汎ラテン〜地中海音楽が共通して持つ、ドラマチックな情熱を歌にこめることができるのがフラングーリスの良さだ。おそらくサルサや、キューバボレーロが好きな人も、かなりハマることだろう。
 そのカリブ海ラテンの視点からすれば、フラングリースは、「クラシックの仮面をかぶったボレリスタの新星」と言える。堂々としたテノールの背後に隠された「センティミエント」。彼がギリシャ人であることを考えると、ラテン的と見えるその感性とは、スパニッシュに限らずさらに広い文化圏の共有財産であることが知れる。
 すでにアメリカでは「クラシカル・クロスオーバー・チャート」で3位までに入った本作だが、選曲や演奏には、とにかく堅苦しくなく幅広く、といった配慮がなされている。
 映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の挿入歌「こんにちは、お姫さま」、ムーディ・ブルースの67年の世界的ヒット「サテンの夜」、イタリアの巨匠ニーノ・ロータの「カンツォーネ・アラビアータ」、スペインのホセ・マリア・カーノ(元メカーノ)の「死せる自然」ほか、マーケティング的にもよく練られたこれらの歌をフラングーリスは英語、イタリア語、スペイン語、ギリシャ語とうたいわける(英語は味わいが薄い)。
 その多くは、物語性を盛り込んだ歌である。例えばロベルト・ムローロ(イタリアの歌手)の「ルナ・ロッサ(赤い月)」は、赤い月に向って自分を待ってくれる人はいるかと尋ねる歌である。そのたびに、月からの答えは「ノー」。夜をさまよう孤独な男と、赤色の月との不吉で悲喜劇的な会話が、力強いビートと大合唱、そしてフラングーリスのボーカルによって、宙へ向って膨張していく。その面白さ。続くカーノ作の「死せる自然」は、女(アナ)に恋した海が、アナの恋人である漁師を帰らぬ人とするという物語で、泣き続けるアナは荒れ狂う海のそばで石になってしまう。ヨーロッパの自然と歴史を背景としたこのドラマティックな歌は、このアルバムでも白眉と言えるだろう。
 世界デビューのために構想3年という歳月をかけたと解説にあるが、なるほどと納得させられる秀作である。
 
Amazon.co.jp−『Mario Frangoulis/Sometimes I Dream』
 

( 2003/02/18 )

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