アメリカにおけるブラック・ムービー…つまり黒人による、黒人のための映画、その嚆矢と言われるのが、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズによる『スウィート・スウィートバック』(1971年)である。
脚本、監督、主演、そして15万ドルの製作資金をかき集めて作ったこの作品が、商業的に成功したことをきっかけとして、『黒いジャガー』や『スーパーフライ』『110番街交差点』など黒人マーケットを狙ったフィルムがブームとなった。のちの『
マルコムX』(スパイク・リー監督)なども、この流れを無視して語ることはできない。
メルヴィンの『スウィート…』は、ストリートの黒人が白人警官を殺して逃走するという設定だった。ブラック・イングリッシュと暴力、そして猥雑さにあふれ、今見てもかなりカルトな作品だが、そこには差別と偏見だらけの「黒人像」に対する怒りが隠されているのである。
この映画は、すべてが非(反)ハリウッド的であるために、当初は全米で2館だけの公開だったそうだが、それが
ブラック・パンサー党らの「過激派」のバックアップによりついには、71年におけるインディ・フィルム興行収益1位の作品となった。
『スウィート・スウィートバック』は、10月1日に、ユーロスペースでレイトショー公開される。
同じ10月1日から、シネセゾン渋谷で公開される(レイトショー)のがメルヴィンの息子であるマリオ・ヴァン・ピープルズが主演、脚本、監督する『バッドアス!』(2003年)だ。
マリオは『ニュー・ジャック・シティ』など、監督、俳優として活躍する人物だが、今や伝説となったオヤジの作品が、いったいどのように作られたのかを、彼自身が父親に扮するという設定で描いたのが『バッドアス!』なのだった(…しかし、なんという題名なんだ?)。
黒人がヒーローとなる映画を作るんだ…という、当時としてはとんでもない構想が、どれほどの苦労と挫折を招き込むのかを、『バッドアス!』はよく描き込んでいる。
資金をどこから調達するのか、組合問題などなどトラブルは山積で、父親メルヴィンが八方ふさがりの中、結局は自分が主演せざるを得なくなり、ついには健康を害し、子どもたちまでも暴力的にこのウズへ巻き込んで行くという過程、よくもこんな状態で完成できたものだと思う。
ちなみに『スウィート…』の映画音楽を担当したのは、無名時代のアース・ウィンド&ファイアであったことは有名だが、彼らもノーギャラ状態で仕事を受け持ったというのも、面白い。というか、みんな崖っぷち状態で前に進んでいたことがよくわかった。
60年代末から70年代初頭の、当時のアメリカにおいて、イカレたヒッピーやら怪しい黒人やらが入り乱れ、これにかつての『スウィート…』の実写や、当時の証言(出演俳優の演技)がドキュメント・フィルム風に加味されるのが『バッドアス!』だ。とても21世紀に作られたとは思えないような、混乱のあの時代の奇妙な熱気が画面にあふれているのが、とっても"too bad"でした。
(藤田正)
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